9kyuu星の便りvol 9 マルク・シャガールの星と運命
新しい精神の故郷
マルク・シャガールの星と運命
Hometown of the new spirit
Marc Chagall's Astrology and Destiny
『誕生日』The Birthday 1915年
目次
1) 2021年の魚座新月と春分図
2) アーティストの人生の中に星空を探す Vol.3 マルク・シャガール
蟹座 * 月・・・故郷 * こころ
天秤座 * 金星・・・結婚 * 楽しみ
魚座 * 海王星・・・無償の愛 * ファンタジー
3) 新しい精神の故郷
1) 2021年の魚座新月と春分図
2021年2月21日に水星の逆行が終わり、4月27日に冥王星が逆行を始めるまでの春のここち良
い約2ヶ月を、ものごとがスムーズに進む全天体順行の状態で過ごすことができます。
そんな中、3月13日には魚座で新月が起こります。その1週間後の20日には、占星術の新年の春 分を迎えます。
約半年後の魚座満月の日に咲く花のイメージが示された魚座新月図と、これから1年にわたる世の 中のイメージが示された春分図。
どちらのイベントも6ハウスで起こったり、ホロスコープの右半分に10天体が在室していたり、アセン ダントが天秤座の中盤にあったり、MCが蟹座の中盤にあったり、、、
今年の魚座新月は ”春分” のプレオープンのよう... とても似ています。
2021年 魚座新月図
2021年 春分図
2020年は火星が牡羊座に長期滞在し、火の星座の持つ精神性や創造性に勢いもありました。が、 今年は風の時代が来たとはいえ、長期的な周期で回る天王星、海王星、冥王星は地や水の星座に 滞在しています。
風の力で燃え上がる火そのものが点っていない受動的なムードですが、まわりの人の意見や援助で チャンスがもたらされる1年でもあります。そよそよ吹くそよ風のような動きに乗って、見ず知らずの人 に逢いに出かけてみましょう。
そんな場で親しくなった人たちに向け、故郷の記憶や幼少期の体験などの自分のルーツを話してい るうちに、神秘的な感性や本質的な愛情に目覚めるようなことが起こってくるでしょう。
そうした経験を大切にする社会の必要性を覚え、言葉に置き換えるに難しいその新たな情操の育て 方を、初心者にもわかるように工夫するなどの仕事が舞い込むかもしれません。
人の役に立つことが喜びに繋がるような今年は、きちんとこなそうとついつい無理をしがち... 体調を 崩しやすくなります。
誰かと共に過ごす時間が増える分、瞑想やヨガを取り入れたり、アロマやハーブに親しんだり、詩や ファンタジーに富んだ芸術に触れるなど、神秘性に身を委ねる1人の時間をたっぷりとって休養する ことも習慣にしてゆきましょう。
宇宙のリズムと同調する時間を暮らしの中に取り込んでいると、自分の意図することが無意識の層 にどんどん浸透してゆきます。
その結果シンクロニシティ的な出来事がたびたび起こるようになり、そのながれに身を委ねる中で、 予想外の方向から良い結果がもたらされるでしょう。
『時は岸のない河』Le temps n'a point de rives 1930-39年 「人には港なく、時には岸辺なし、かくて時は過ぎ、われらは去る! われらは急ぎてこの短き時を愉しまん。」フランスの詩人ラ マルティーヌの瞑想詩集に収められた『湖水』がテーマとなった絵です。描かれた頃のヨーロッパは、混乱のさなかでした。
1) アーティストの人生の中に星空を探す Vol.3 マルク・シャガール
魚座新月図と春分図のアセンダントは、どちらも天秤座にあります1。天秤座の支配星の金星は6 ハウスに在室し、魚座新月図では海王星・太陽・月という3つの天体とコンジャンクション2。春分図 では太陽とコンジャンクションしています3。
魚座新月図と春分図のMCは、どちらも蟹座にあります4。蟹座の支配星の月は、春分図では9ハウスに在室し、ドラゴンヘッドとコンジャンクションしています5。
〈無償の愛・ファンタジー〉といったテーマを持つ魚座やその支配星の海王星、〈結婚・楽しみ〉といっ たテーマを持つ天秤座やその支配星の金星、〈故郷・こころ〉といったテーマを持つ蟹座やその支配 星の月が存在感を放っています。
そんな今回は、海王星と金星のスクエアや蟹座の太陽など、海王星、金星、月が存在感を放ったホ ロスコープを持つマルク・シャガールです。
故郷や結婚というテーマをファンタジー豊かに描き、〈愛の画家〉と呼ばれたシャガールの星空を眺め つつ、これからの一年のムードに浸ってみましょう。
『私と村』I and the Village 1911年 故郷ヴィテブスクの記憶が統合されています。右側の農夫はシャガール自身で、ユダヤ教の「生命の樹」を持っています。画 面中央にある大小重なった円は、太陽と月と地球で日食をあらわしているともいわれます。
『窓から見たパリ』Paris Through the Window 1913年 シャガールは、1911年にパリに移住します。当時流行していたキュビスムの影響がみられます。二つの顔はフランスとロシア という二つの故郷に向いているようです。後にシャガールは、パリを“第2のヴィテブスク”と呼ぶようになります。
蟹座 * 月・・・故郷 * こころ
1887年7月7日、白ロシア共和国のヴィテブスクの小さな村の敬虔なユダヤ教徒の第一子として シャガールは生まれました。
母や親族からのたっぷりの愛情、ヴィテブスクの村の個性的な人々、農民と動物が助けあう生活。慎 ましい暮らしの中におもちゃなどといったものはありませんでしたが、サモワールというお湯を沸かす ための金属製の器具や大きな掛け時計、温かな色のランプ、、、そんなココロを満たすものに囲まれ てシャガールは育ちました。
「僕は、自分の思い出や夢や考えを絵で表す、キャンバスや紙の上で、自分の世界 ... 花、ランプ、 サモワール、優しい目をした雌牛、そしてバイオリン弾きやラビや農夫やヴィテブスクの人々 ... に命 を与えるのだ」
シャガールはその言葉のとおり、生涯にわたり故郷の素朴な町の風景を繰り返し愛情を込め描き続けました。
1911年にパリを訪れ、フォーヴィスムやキュビスムなどの影響を受けたシャガールの作風は、鮮や かな都会の色と懐かしい故郷の色が混じりあう万華鏡を覗いたよう ... 幻想的に美しく変化します。
パリにはないその独特の表現は、次第に評価されるようになってゆきました。
『エッフェル塔の新郎新婦』Les Mariés de la Tour Eiffel 1939年 豊穣さの例えを持つ雄鶏のお腹には、バイオリンを弾いた天使が描かれています。結婚の絵に描かれることの多い天使は、 結婚の翌年に誕生した娘のイダではないかと言われています。
『ヴィテブスクの冬の夜』Winter night in Videbusk 1947年 ベラと出逢ったのもヴィテブスクでした。雪の降る小さな村の空の上を飛ぶ幸せそうに二人には、寒さは届かないのかもしれ ません。
『楽園』Paradise 1961年 天使や動物たちが平和に暮らしているエデンの園が描かれています。"善悪の知識の実...りんご" を持ったアダムとイヴの隣 には、誘惑者の蛇が描かれています。
天秤座 * 金星・・・結婚 * 楽しみ
シャガールの絵には、繰り返し愛情を込め描かれ続けているもう一つのテーマがあります。それは最 初の妻、ベラ・ローゼンフェルトとの愛や結婚です。
ベラも故郷のヴィテブスクの人でした。出逢いは1909年の秋といわれていますが、その際のベラは 14歳で結婚には至りませんでした。
1914年、パリで活動していたシャガールは、故郷でベラと結婚式を挙げようと一度ヴィテブスクに戻 ります。が、第一次世界大戦の勃発によりパリには戻れず、結婚も1年先送りとなりました。
『誕生日』は、1915年7月25日の結婚式のわずか数週間前、、、7月7日のシャガールの誕生日 に、ベラが野の花の花束を持って彼の部屋を訪ねた際の幸福な気分が描かれた絵です。
「緑色のバイオリン弾き」 The Green Violinist 1923-24年 ローマ皇帝ネロによるユダヤ人の大虐殺で逃げまどう群衆の中、たったひとり屋根の上でヴァイオリンを弾く男がいました。そ んなユダヤ人の不屈の魂の象徴が描かれています。
『白い磔刑』 White Crucifixion 1938年 ユダヤ教の会堂のシナゴーグに火がつけられるなどのユダヤ人の苦しみが、イエス・キリストの苦しみとともに描かれてます。
魚座 * 海王星・・・無償の愛 * ファンタジー
1930年代、ドイツではナチスが政権を取り始めます。シャガールの絵は頽廃芸術とされ、ユダヤ人ゆえに他の画家たちよりも酷い没収の対象となりました。
第二次世界大戦が始まると、ユダヤ人の迫害はフランスにも及びます。1941年、アメリカへの亡命 を決意したシャガールは、一家でニューヨークへ移り住み難を逃れますが、1944年に、最愛の妻ベ ラが感染症で亡くなるなど、大きな悲劇が続きました。
シャガールの戦後の絵の中の青い色は、ユダヤ人の虐殺やベラの死という悲しい経験を通し、深み と純度を増してゆきます。無償の愛を湛えたその美しい青は、シャガールの代名詞ともなっています。
ユダヤ人の迫害の歴史。それは「ユダヤ人の子は絶対に画家になってはいけない」というシャガール が子どもの頃に受けた母の反対の理由とは全く違い、複雑で困難で受け止めがたいものでした。
シャガールとベラが純粋な愛によって一つとなり、故郷ヴィテブスクの上空を浮遊する構図と夢見心 地な表現は、生まれる前の天使たちが降り立つ故郷を選んでいるようでもあります。
シャガールの絵は、祖国を持たない運命を背負ったユダヤ人や、自分のアイデンティティを見失うよ うな時代を生きる人々の疲れたココロに寄り添い、ファンタジックな世界へと束の間の休息に誘うセラ ピストのようです。
そして訪ねた世界は、誰もが共通して持っている普遍的な故郷なのかもしれませんね。
パリのオペラ座の天井画 1973年
3) 新しい精神の故郷
目指すべき社会を示すMC。今回の新月図では、『食べ過ぎを楽しんだグループの人々』というサビアンシンボルを持つ蟹座15度にあります。
「人生でも芸術でもわれわれが恥じらうことなく愛という言葉を口にすれば、すべては変わりうる・・・ 真の芸術は愛にあるのだ。」
そんなメッセージを残したシャガールの太陽の度数は、実はその蟹座15度なのです。
胃、、、そんな身体の内側が求めている欲求を恥じらうことなく口にして、仲間と共にめいっぱい満ち たりてゆける社会、、、
MCは建物の中でいうと天井のような場所なのですが、私たちがこれから目指してゆく社会は、シャ ガールが天井画を描いたパリのオペラ座のような豊かな空間を、身体の内側に持った人たちが集ま る社会かもしれません。
宇宙の新年、今年はぜひ新しい精神の故郷となる楽園をつくるトレーニングをしてゆきましょう。
あなたはプレアデスの鎖を結ぶことができるか。オリオンの綱を解くことができるか。 あなたは十二宮をその時にしたがって引き出すことができるか。 北斗とその子星を導くことができるか。 あなたは天の法則を知っているか、そのおきてを地に施すことができるか。
『ヨブ記』の第38章 31 − 33 の一説
次回の9kyuuの星のお便りでは、 ゴッホの人生と作品の中に星を探します。
美術家 田谷美代子
印刷会社勤務の傍ら、子どもとの自然体験の場や絵本教室に通う。 絵を描くための哲学の必要性 を感じ、渡独にて人智学、その後占星術に出会う。 国内、フランスのギャラリーにて作品の出展や、 本の装丁、プロダクトパッケージなどを手がける。 また、現在子どものアートワークショップの開講に 向け準備しております。
9kyuu Creative Director / Designer SAYAKA HAMADA
9kyuuのクリエイティヴディレクター / デザイナーであり、数年前よりミツバチの生態やアート、占星術、人智学、自然哲学、民俗学などを学んでいます。