植物と一緒に生きて行く | 9.kyuupartnerコラム

Garden Designer / Suzuki Kesuke //

 

暮らしの中に植物を取り入れ、自然を身近に感じられるライフスタイルは、人の心をより豊かにするはずです。私は、庭園デザイナーとして様々な空間をデザイン・施工してきましたが、間違いなくその効果があると思います。植物を使って素敵な空間を作ることだけが私の仕事ではありません。その空間で今まで気にもかけなかった季節の変わり目を感じられたり、見上げなかった空を見上げるようになったり、そして向き合う時間を持たなかった自分を見つめ直すようになる。そんな場所を作ることが私の理想です。

9.kyuu(キュウ)がコンセプトとする「パーソナライズ」とは、自分と向き合い、見つめ直すことから始まるのだと思います。「植物」と「石鹸」。ツールは違いますが、目指す場所は同じ。そういう意味で9.kyuu(キュウ)のブランドコンセプトに私自身深く共感してしまいました。

またここ数年、モノの時代からココロの時代へと、何か「うねり」のような大きな変化を感じずにはいられません。大量生産・大量消費といった感覚はもはや違和感があります。石鹸を手作りする9.kyuu(キュウ)の温かさとパーソナライズをコンセプトにする多様性とが、その「うねり」を一層大きなものにさせるはずです。

目次

  1. 植物の魅力
  2. 「パーソナライズ」とは
  3. 植物と暮らす豊かさ
  4. 「サスティナブル」を考える
  5. 9.kyuu(キュウ)の魅力

植物の魅力

埼玉県の南部に位置する大宮は、「鉄道博物館」や全国の氷川神社の総本社「武蔵一宮氷川神社」があることで知られ、その周辺には桜の名所「大宮公園」や、豊かな生態系を残す見沼田んぼが広がっています。また大宮公園の北側には「盆栽町」という地名があり、その名の通り盆栽園がいくつも並び、今では外国人観光客も多勢訪れています。私はこういった環境で小さい頃から何となく盆栽や自然に慣れ親しんではいたものの、植物に全く興味を持つ事はありませんでした。しかし大学時代に近所のホームセンターにあった3,000円のケヤキの盆栽が妙にカッコ良く見え、そのまま購入したのを機に、盆栽町の盆栽教室に通い始めることになります。その時は盆栽の知識もなく、その良し悪しはもちろん分からず、その出で立ちがオブジェとしてカッコ良いと思っただけでした。

春には花が咲き、綺麗な新緑の葉を芽吹き、夏にはびっしりその葉を茂らせ、赤い実を付け、秋には黄色や赤に紅葉し、葉を落として冬の寂しい姿になります。いくつかの盆栽を手にし、この一連の季節の移ろいを小さい鉢の中で目の当たりにしました。大学生だった私はまさに向き合う時間を持たなかった自分自身を初めて見つめ直すことになったのでした。こうして盆栽に完全に心を掴まれたまま今に至っています。



「パーソナライズ」とは

盆栽を始めた当初、コナラという樹木から落ちたドングリを拾って自宅の鉢に植えてみました。ドングリから育てることを実生(みしょう)と言います。この時植えた10個のコナラのドングリのうち7個のドングリからかわいい芽が出ました。その後大学を卒業し、就職して実家を出て、都内で一人暮らしを始め、何度か引越しを繰り返すことになるのですが、ずっとこのコナラの鉢だけは枯らさずに手元に持ち続けました。南向き、日当たり良好のベランダ付きが私の物件探しの最優先事項となり、仕事で何日か家を空けるときは近所の盆栽好きのおじさんに預かってもらうこともありました。決して形が良いわけでもなく、恐らく他人からすれば何が良いのかわからないかもしれません。でも、すでに20年以上一緒にいるこのコナラの盆栽は私にとっては他に替えが効かない思い入れの詰まった盆栽となっています。

私にとってのコナラのように、替えが効かないということが「パーソナライズ」のあるべき姿なのかもしれません。誰かと同じものではなく、自分のためだけのカスタマイズをする。そしてさらに「モノ」としてだけではなく、そこに思い入れとしての「ココロ」を丁寧に重ねていくことで、本当の「パーソナライズ」となるのではないでしょうか。



植物と暮らす豊かさ

植物と一緒に暮らしていく中で欠かせないのは水やりです。この水やりができていれば、植物を枯らしてしまう確率はかなり下がります。鉢に入った植物は地面と違って土の中の水分が蒸発しやすく、お庭よりも水やりが必要です。当時10鉢くらい所有していましたが、仕事が忙しく、また出張も多いため、年間タイマーで水やりをコントロールできる自動散水装置を取り付けました。 面白いことにそうなると、何となく安心してしまい、風に吹かれて鉢が転がったままになってしまったり、虫が付いていることに気がつかなかったり… 結局盆栽が荒れてしまうのです。自動散水装置が悪いのではありません。私の植物に対しての思い入れの問題です。よく植物に名前をつけたり、話しかけると元気に成長するなどと言いますが、これなんてまさに思い入れの問題で、そうすることで水やりを忘れにくくなったり、植物の状況をよく見たりするようになるからだと思います。

出かける前に歯を磨くように、水やりが習慣化すると気持ちがいいものです。天気の良い日には水を浴びた植物がキラキラして喜んでいるようです。また少しずつ膨らんでくる蕾の様子を毎日のように確認して、仕事を終えて自宅に帰ると、とても綺麗な花を咲かせて出迎えてくれたり、熟した実がはじけて中から真っ赤な種子が顔をのぞかせたり…そんな変化を見つけると、これは間違いなく、頭で想像するよりも何倍も嬉しいものです。



「サスティナブル」を考える

私は本業の庭園デザイナーとしての活動とは別に教育をテーマとした「一般社団法人green4(グリーンフォー)」を立ち上げ、昨年から大学の非常勤講師として「社会貢献とボランティア活動」「都市生活と社会政策」という2つの授業を受け持っています。また来年度からは高校の特別授業でも講義をする予定です。「SDGs」や「働き方」というキーワードを軸に、個人がどのように社会と関わって、より心豊かな毎日を送るかということを学生と一緒に日々考えています。

社会貢献は今や「自己犠牲」ではなく「自己実現」であり、「サスティナブル」であるためには「楽しい」が最も有効なのかもしれません。



9.kyuu(キュウ)の魅力

 

私の自宅では、これまでポンプ式の液体石鹸を使っていましたが、環境に与える影響などを考え、さらに使い心地も良い9.kyuu(キュウ)の石鹸を家族にも使ってほしいと思うようになりました。しかし、慣れというのは恐ろしいもので、うちの子供たちは何度言葉で説明しても石鹸を変えようとしません。慣れた液体石鹸をどうしても使いたがるのです。そこで、例の猫の型を使って、子供たちに石鹸作りを体験させました。上の子は黄色の石鹸にラベンダーの精油を入れ、下の子はいろいろと悩んだ末、青色にペパーミントという組み合わせを選択。型から出てきた猫の石鹸に大喜びしました。すると、その日から毎日、自分が手作りしたお気に入りの石鹸で体を洗うようになったのです。思い入れを持ったことで彼らにとっては、もはやこの石鹸でないとダメなようです。兄弟で黄色と青色の石鹸が入れ替わってもダメなのです。悩みながら自分で色と匂いを決めた「この石鹸」でないといけないのです。これが9.kyuu(キュウ)の最大の魅力になっているのだと思います。

石鹸に限らず、私の「コナラの盆栽」と同じように、誰とも同じではない「パーソナライズ」という特別感は、この現代に欠かすことができないものになるのではないでしょうか。



鈴木圭介

1978年さいたま市大宮区生まれ。 旅行会社、芸人活動、庭園デザインの修行を経て、庭園デザイナーとして株式会社GREFICA(グリフィカ)を立ち上げ、独立。個人邸から商業施設、寺社仏閣など様々な空間を植物でプロデュースする。 また、教育をテーマとした一般社団法人green4(グリーンフォー)を立ち上げ、産業能率大学非常勤講師として「社会貢献とボランティア活動」、「都市生活と社会政策」を担当、2020年4月からは姫路女学院高等学校プロジェクト特別講師としてSDGsや働き方などをテーマとした授業を展開する予定。全国で学生と一緒にその活動の幅を広げている。