9kyuu星の便りvol 10 ゴッホと星と運命
生まれ変わるアイデンティティー ゴッホの星と人生
Reborn identity
Vincent Willem van Gogh's Astrology and Destiny
『ひまわり』Sunflowers 1888年
目次
1) 2021年の牡羊座新月
2)アーティストの人生の中に星空を探す Vol.4 ゴッホ
パリ時代・・・テオとの同居 アルル時代・・・ゴーギャンとの同居 サン・レミ療養所時代
3) 生まれ変わるアイデンティティー
『自画像』Self-portrait 1887年
1) 2021年の牡羊座新月
10天体全てが順行する期間は、それぞれの惑星のエネルギーが遮られることなく働く期間と言われ ます。全体の約8パーセントと言われるそんな貴重な期間が、2021年はトータルで約80日間もあり ます。
この期間は冥王星が逆行し始める4月27日に終わりを告げるのですが、その2週間前の4月12日 に牡羊座で新月が起こります。
2021年 牡羊座新月図
新月の際には、見える世界での幸運のありかを示すパート・オブ・フォーチュンといったポイントや、 見えない世界での幸運のありかを示すパート・オブ・スピリットといったポイントが、アセンダントという 同じポイントに位置します。
そんな今回のアセンダントは獅子座の1度に位置しています1。その支配星の太陽は新月とともに1 0ハウスの牡羊座にあり、MCでカルミネート2、金星とはコンジャンクション3、牡羊座の支配星の 火星4や、拡大発展の木星5とセクスタイルの角度をとっています。
自分の仕事と思い掲げていた看板が、全く新しいものへと変わってしまうような衝動が生まれます。 それに突き動かされてとる行動は、頭で考えてコントロールできるものではなく、周りの人はもとより 自分自身も困惑するかもしれません。
が、のちのちそれらは、今まで目にしたことのないようなオリジナリティーのある天職となり、社会に 貢献できるものとなってゆきます。
牡羊座の支配星の火星は双子座に滞在し6、双子座の支配星の水星が牡羊座に滞在7。お互い にお互いを助け合うミューチュアルレセプションとなっています。
飛躍しすぎな方向転換への戸惑いを人に話すと、その冒険の羅針盤的な力を貸してもらえるでしょ う。10天体順行の追い風に乗ってスムーズな出発ができるでしょう。
『ローヌ川の星月夜』Starry Night Over the Rhone 1888年 アルルに移ってからゴッホは夜景に関心を持つようになります。アルルで住んでいた黄色い家から歩いてすぐの場所にある ローヌ川の埠頭から見える風景で、夜空にはおおぐま座を見つけることができます。
次のハウスの5度前にある天体は、次のハウスとしても読むことがあります。今回の冥王星は6ハウ スにありますが7ハウスの5度前に位置していますので8、10天体全てが、社会性の育成段階の7 ハウスから12ハウスに集まる状態になります。
長期的なトランスサタニアンの星座が地や水のサインに属しているこの1年は、火のエネルギーが少 なく静けさに満ちているのですが、今回の新月図は上半分が賑やか。
火の星座にも4つの天体が入り、夜空にたくさんの星が瞬いているゴッホの星月夜の絵のようなイ メージです。
そこで今回は、10天体順行中の牡羊座生まれでもあるゴッホの人生の中に星空を探してみましょう。
『聖書のある静物』Still Life with Bible 1885年 プロテスタントの牧師だった父の持っていた聖書です。ゴッホが32歳の誕生日を迎える前に父が急逝。その直後に描かれた 絵です。
1) アーティストの人生の中に星空を探す Vol.4 ゴッホ
1853年3月30日。ゴッホはオランダ南部のズンデルトという小さな町で、教会に勤める牧師の家に生まれました。
学校を退学し16歳で就いた画商の仕事は、失恋をきっかけに退職。父への憧れで受けた牧師の試 験は不合格。次に目指した伝道師は、熱心すぎる信仰心によって自己犠牲が行き過ぎ、資格が取得 できず、、、そんな失意の中、ゴッホはフランスへの旅に出ます。食べるものも宿もなく放浪しているう ちに、画家になることを決意します。
牧師の父を尊敬し、自身もそれを仕事にしたいと精神的に追い詰められるほど聖書の研究をした ゴッホが、自然物を崇拝する画家の道を歩き始めたのは27歳の時でした。
ゴッホのホロスコープの射手座にはその支配星の木星が入り、月やドラゴンテイルがコンジャンク ションしています。思想や哲学や宗教的なテーマとの縁が非常に深く、それ無くしては心の安らぎは 保ちにくかったと思われます。
あふれんばかりのピュアな善意は、一般的ではない表現に変えることでポジティヴに働きます。画家 へと改宗したことで、その資質を活かすことができたでしょう。
決意後まもない20代の後半は『落穂拾い』を描いたミレーを尊敬し、田園風景や農家の様子など、 自然と宗教との関係が強く示された牧歌的な作品を多く描きます。
『タンギー爺さん』Le Père Tanguy 1887年 素朴なユートピア的社会主義理想を抱いていたタンギー爺さんとゴッホ。貧しい友人や労働者や娼婦に、自分の持ち物を分 け与えていたそうです
パリ時代・・・テオとの同居
真っ直ぐすぎる性格で癇癪もよく起こし、家族とのトラブルが絶えないゴッホの唯一の理解者は、4歳 年下の弟のテオでした。ゴッホが絵を続けるための生活費や画材を買うための資金を、毎月15万円 ほども援助しています。
パリに住むテオの家に転がり込んだ33歳のゴッホ。1886年から約2年間のパリ時代に、多くの画 家たちと知り合います。
そのころのパリのトレンドは、荒い筆致や細かい点を並べて絵を描く ”新印象派” でした。勉強熱心な ゴッホの絵は明るい色彩のものとなってゆき、その変化をテオは喜んでいました。
相談相手でもあった画材屋のタンギー爺さんを通じ、ゴッホは日本の浮世絵を知り、画家のゴーギャ ンとも出逢います。
『ファンゴッホの寝室[第3バージョン]』La Chambre à Arles 1889年 テオからの仕送りで家具を買い揃え、暮らし始めたアルルの黄色い家。その2階のゴッホの部屋が描かれたこの絵は3点あり ます。左側の扉はゴーギャンの部屋につながっていたとされています。
『夜のカフェ』The Night Café in the Place Lamartine in Arles 1888年 アルルのラマルチーヌ広場にあったカフェ・ド・ラ・ガール。同じ建物に住んでいたゴッホは、赤と緑の補色で人間の恐ろしい情 念を、また居酒屋の闇の力のようなものを表現しようと、3日3晩徹夜して描きました。
アルル時代・・・ゴーギャンとの同居
浮世絵を買い込み模写を続けていたゴッホは、1888年2月後半、突然南仏のアルルへと旅立ちま す。
大気の透明さやあかるい色、豊かな青の広がりやエメラルドの水。浮世絵のような美しさをアルルの 風景にユートピアをみたゴッホは、取り憑かれたように絵に没頭してゆきます。
パリで親密になったゴーギャンに「ここで一緒に住まないか?」と提案し、共同生活となる場をひまわりの花でいっぱいにしようと、その夏に幾枚もの『ひまわり』を描いています。
『種まく人』The sower 1888年 尊敬していたミレーの代表作の一つと同名の絵です。ゴッホは「種まく人を描くことは昔から僕の念願だった。古い願いはいつ も成熟できるとは限らないけど、僕にはまだできることがある。ミレーが残した『種をまく人』には残念ながら色彩がない。僕は 大きな画面に色彩で種まく人を描こうかと思っている」と書き残しています。
『夜のカフェテラス』Terrasse du café le soir 1888年 夜空に描かれた星を「天国の花」と語ったゴッホ。この秋の夜空の絵に描かれているのは、やぎ座とけんびきょう座の一部、 或いは水瓶座と言われています。
アルルでゴッホは、本質の違う色を隣同士に置くなど、お互の色を引き立たせる取り組みもしていま す。
惑星の色彩対応では、牡羊座の支配星の火星には赤、獅子座の支配星の太陽には黄、射手座の 支配星の木星には青が関連づけられています。
赤は命の輝き、黄は精神の輝き、青は魂の輝き、、、色の本質をそのように捉えることがあります。
ゴッホの出生時、太陽は牡羊座、月は射手座にあります。獅子座には天体が入っていませんが、そ こに天体がくる時期は、幸運と援助をもたらすグランドトラインが形成されます。
無から有を創造する火の星座。獅子座に関連するひまわりや黄色に意識を持ってゆくことで純粋な 幸福を得ることができると、ゴッホは直感的に欲したのかもしれません。
『糸杉と星の見える道』Country road in Provence by night 1890年 糸杉にいつも心惹かれていたゴッホ。古代エジプトの神殿などに立てられたオベリスクのように美しい糸杉を、なんとかひまわ りのような作品に仕上げたいと思っていました。
『オーヴェルの教会』L'eglise d'Auvers-sur-Oise, vue du chevet 1890年 牧師の父親の赴任先だったオランダのニューネンに戻っていた1885年、ゴッホは一部が取り壊された古い教会の塔を描いて います。5年後の1990年に描いたこの教会は、色彩もフォルムもタッチも自由で豊かな表現となっています。
サン・レミ療養所時代
1888年10月、ゴーギャンとの生活が始まるも二人の意見は対立。2ヶ月後の年末にはゴッホがに 左耳を切り落とす事件が起こり、同居は解消します。
耳の治療が終わった後も幻覚に悩まされ、1889年は精神病院の入退院を繰り返します。そんな中 訪ねてきた友人の画家のシニャックが、パリ時代よりも大きな成熟を遂げているゴッホの絵を見て驚 き、ゴッホ自身もシニャックに刺激を受けて絵画制作を再開します。
サン・レミ療養所へ移ると、使わせてもらった画室の窓からみえる麦畑や花々を描きますが、この頃 から渦巻く線や波打つ線が多くなります。
出生のドラゴンヘッドと進行のドラゴンヘッドがコンジャンクションになる37歳は、「私はこの人生で本 当は何を成し遂げたいのだろうか?」「私の人生はこれで良いのだろうか?」という問いが生まれる 時期です。
1890年、初めて絵が売れた同年の7月、37歳のゴッホは拳銃で腹部を打ち2日後に亡くなります。
ゴッホの入院した頃、テオはヨーと結婚。翌年には子どもも授かっていますが、仕事や家族のことで 悩み、1891年1月、ゴッホの後を追うようにテオも33歳で亡くなります。
『花咲くアーモンドの木の枝』 Almond blossom 1890年 テオは、妻ヨーとの間に生まれた長男の名前を、ゴッホと同じ “フィンセント” にしました。ゴッホは「言葉で表せないほど嬉し い」と、アーモンドの花を描きテオに送りました。
3) 生まれ変わるアイデンティティー
ゴッホが画家として活動したのは10年ほどですが、今日知られている画風の絵はアルルに転居した35歳以降... 37歳で亡くなるまでの最後の約2年半の間に生まれています。 0歳から35歳までは前世のカルマを清算する時期、35歳から70歳までは来世の準備をする時期と言われることがあります。
ドラゴンテイルは、”前世で幾度も取り組んだことで、今世でもできてしまうこと” とも言われるポイント ですが、ゴッホのそのポイントは宗教的な色が強く、牧師の父や聖書というという存在が身近にあったことは、将来の仕事にするためというよりは、35歳までの前世のカルマの清算のために与えられ ていたようにも思えます。
ゴッホのアイデンティティーが生まれ変わったかのような画家への転向は、来世の準備としてもたらさ れたのかもしれません。2年半という短い期間に代表作がたくさん生まれたのは、清算したエネル ギーの大きさゆえでしょうか?
今回の新月でもアイデンティティーが生まれ変わるような衝動が起こりますが、それは新たな天職への準備としてもたらされるものと言えます。
コロナなどによって清算された幸運のありかに、光り輝くひまわりのタネを蒔きましょう。
あなたはプレアデスの鎖を結ぶことができるか。
オリオンの綱を解くことができるか。
あなたは十二宮をその時にしたがって引き出すことができるか。
北斗とその子星を導くことができるか。
あなたは天の法則を知っているか、そのおきてを地に施すことができるか。
『ヨブ記』の第38章 31 − 33 の一説
次回の9kyuuの星のお便りでは、 レオナルドダヴィンチの人生と作品の中に星を探します。
美術家 田谷美代子
印刷会社勤務の傍ら、子どもとの自然体験の場や絵本教室に通う。 絵を描くための哲学の必要性 を感じ、渡独にて人智学、その後占星術に出会う。 国内、フランスのギャラリーにて作品の出展や、 本の装丁、プロダクトパッケージなどを手がける。 また、現在子どものアートワークショップの開講に 向け準備しております。
9kyuu Creative Director / Designer SAYAKA HAMADA
9kyuuのクリエイティヴディレクター / デザイナーであり、数年前よりミツバチの生態やアート、占星 術、人智学、自然哲学、民俗学などを学んでいます。